東京高等裁判所 昭和35年(う)1680号 判決
被告人 小泉武雄
〔抄 録〕
弁護人及び被告人の各控訴の趣意は、要するに、道路運送法第百一条第一項は、自家用自動車を有償で運送の用に供することを禁止しているが、同条同項は、職業選択の自由を保障した憲法第二十二条第一項の規定に違反する無効の法律であるから、これを適用して被告人を処罰した原判決は、法令の適用を誤まつたものであり、その誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。
よつて按ずるに、道路運送法第一条は、「この法律は、道路運送事業の適正な運営及び公正な競争を確保するとともに、道路運送に関する秩序を確立することにより、道路運送の総合的な発達を図り、もつて公共の福祉を増進することを目的とする」旨を規定し、同法第二条第一項は、「この法律で『道路運送事業』とは、自動車運送事業、自動車道事業、自動車運送取扱事業及び軽車両運送事業をいう」旨を規定し、同法第三条第一項は、「自動車運送事業は、一般自動車運送事業及び特定自動車運送事業とする」旨を規定し、同条第二項において一般自動車運送事業(特定自動車運送事業以外の自動車運送事業)の種類を掲げ(同項第一号同乃至第六号参照)、同条第三項において、特定自動車運送事業(特定の者の需要に応じ、一定の範囲の旅客又は貨物を運送する自動車運送事業)の種類を掲げており、同法第四条第一項は、「自動車運送事業を経営しようとする者は、運輸大臣の免許を受けなければならない」旨を規定しており、同条第二項乃至第四項は、右の免許は、路線又は事業区域及び自動車運送事業の種類につき、運送の需要者、運送する旅客若くは貨物その他業務の範囲又は期間を限定して、それぞれこれを行うことができる旨を規定しているのであり、また、同法第六条第一項は、運輸大臣は、一般自動車運送事業の免許をしようとするときは、同項第一号乃至第五号所定の基準に適合するかどうかを審査してこれをしなければならない旨を、同条第二項は、運輸大臣は、特定自動車運送事業の免許をしようとするときは、同項第一号乃至第三号所定の基準に適合するかどうかを審査してこれをしなければならない旨を各規定するとともに、同条第三項において、運輸大臣は、免許の申請を審査する場合において前二項に掲げる基準を適用するに当つては、形式的画一的に流れることなく、当該自動車運送事業の種類及び路線又は事業区域に応じ、実情に沿うように努めなければならない旨右審査の場合における同大臣の遵守すべき事項についての訓示的な条項を示しており、同法第八条は、自動車運送事業者は、旅客又は貨物の運賃その他運輸に関する料金を定め、運輸大臣の認可を受けなければならず、これを変更するときも同様とする旨を規定しており、その他の条項においても、事業区域、運転者に対する制限、事業の休止及び廃止、運輸大臣のなすべき事業改善の命令等右事業者についての各種の規制を設けているとともに、その反面、同法第百一条第一項において、自家用自動車を有償で運送の用に供することを禁止し、あるいは、同法第百二条において、同法第四条の免許を受けないで自家用自動車を使用して自動車運送事業を経営した者等に対しては、期間を定めて自家用自動車の使用を制限又は禁止することができる旨を規定する等同法の目的たる道路運送の総合的な発達を図り、もつて公共の福祉を増進することを企図しているのである。そして、憲法第二十二条所定の職業選択の自由は、同法第十二条によつてこれを濫用することは許されず、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任があることはいうまでもないところであつて、道路運送法第百一条第一項の規定も、いたずらに憲法の保障する職業選択の自由を制限したものではなく、公共の福祉の立場から右自由に一定の規制を施し、もつて道路運送法第一条にいわゆる道路運送事業の適正な運営及び公正な競争を確保するとともに、道路運送に関する秩序を確立せんがために定められたものであると解すべく、これを憲法の規定に牴触する無効のものであるということはできない。各論旨は、いずれも理由がない。
(下村 高野 真野)